子どものインフルエンザで特に気をつけたい合併症の一つが「インフルエンザ脳症」です。
2026年10月22日、東京都で5歳未満の子ども1人がインフルエンザ脳症で亡くなったことが報道されました。子どもが発熱しているとき、「変なことを言う」「急に暴れる」「けいれんする」といった変化を見たら、どう対応すればよいのでしょうか。
インフルエンザにかかった子どもの多くは回復します。しかし、まれに急性脳症などの重い合併症が起こります。この記事では看護師の視点から、インフルエンザ脳症の症状、熱せん妄・熱性けいれんとの違い、家庭での対応、救急受診の目安を説明します。
インフルエンザ脳症とは?
インフルエンザに伴って生じる急性脳症のことです。意識障害やけいれんなどの神経症状が現れ、脳の働きが急激に障害される場合があります。
発症には、感染に伴う過剰な炎症反応、血管や代謝への影響など複数の仕組みが関わると考えられています。単純に「インフルエンザウイルスが脳へ入り込む病気」と説明できるものではありません。また、すべての患者さんに同じ病態が起こるわけではありません。
高熱そのものが脳を傷つけるから脳症になる、という説明も正確ではありません。 熱の高さだけで脳症の有無を判断することはできません。
2026年10月の報道で何がわかった?
2026年10月22日、東京都は、今シーズンの流行入り以降に都内でインフルエンザ脳症3例が確認され、うち5歳未満の子ども1人が亡くなったことを明らかにしたと報じられました。
公表された情報だけでは、その子どもの具体的な症状経過や受診・治療の内容まで判断できません。「この行動を取れば助かった」といった推測は避けるべきです。
国立健康危機管理研究機構の資料によると、2025/26シーズンのインフルエンザ脳症は2026年9月2日時点で176例(うち死亡14例)が報告されています。これは前シーズンの届出に基づく集計であり、今回の東京都の2026/27シーズンの3例に足し合わせる数字ではありません。
見逃したくない主な症状
- 意識の異常: 呼びかけても反応しにくい、視線が合わない、意識がはっきりしない
- けいれん: 手足が突っ張る、ガクガクする、意識を失う
- 異常な言動: つじつまの合わないことを話す、普段と違う行動を繰り返す
- 状態の悪化: ぐったりして目を覚ましにくい、症状が短時間で悪くなる
脳症は発熱から比較的早い時期に発症することがあります。ただし、症状の現れ方には個人差があります。 「何度の熱だから大丈夫」「発症から何日経ったから安心」と決めつけない ことが大切です。
熱せん妄・熱性けいれん・脳症はどう違う?
| 状態 | 特徴の一例 | 重要な注意点 |
|---|---|---|
| 熱せん妄 | 発熱中、一時的に怖がる・意味不明のことを言う・幻覚のような訴えをする | 短時間で戻ることもありますが、持続・反復や反応の悪さがあれば医療機関へ |
| 熱性けいれん | 発熱に伴うけいれん。比較的短時間で止まる場合もある | 初めてのけいれんは速やかに医療機関へ相談。5分以上続く場合は119番 |
| 急性脳症 | 意識障害が持続したり、けいれんや異常言動を伴ったりする | 迅速な検査・治療が必要。家庭では確定診断できない |
この表は一般的な違いの説明であり、家庭で3つを確実に鑑別するための基準ではありません。特に、けいれんが止まった後も反応が戻らない場合や、意識の異常が続く場合は緊急性が高くなります。
図:3つの状態の特徴を整理したAI生成イメージです。家庭での確定的な鑑別には使えません。水分が取れない場合は早めに医療機関へ相談し、呼びかけへの反応が悪い・けいれんが5分以上続く場合は119番通報してください。
すぐ119番通報してほしい症状
- 呼びかけても反応が乏しい、意識がない
- けいれんが5分以上続く、または繰り返して意識が戻らない
- 呼吸が著しく苦しい、唇が青紫色になる
- 急速に意識や全身状態が悪化している
救急車を待つ間は安全な場所に寝かせ、呼吸を確認してください。けいれん中は周囲の危険物を取り除き、体を押さえつけたり、口に物を入れたりしないでください。
早急に医療機関へ相談したい状態
- 普段と違う言動が続く、何度も繰り返す
- 異常な言動の後、はっきりした状態に戻らない
- 初めてけいれんした(止まっていても評価が必要)
- 普段と比べて明らかにぐったりしている、飲水できない
診療時間外でも相談・受診を検討してください。呼びかけに反応しないなどの緊急症状がある場合は、#8000などの相談を待たず119番通報してください。
インフルエンザの「異常行動」は脳症と同じ?
同じとは限りません。発熱に伴う一過性の言動の変化などもあり、異常行動だけで脳症と診断することはできません。一方で、意識障害が続くなど危険なサインが隠れている場合もあります。
厚生労働省によると、インフルエンザでは抗インフルエンザ薬を服用していない場合にも異常行動が報告されています。 タミフルなどの薬だけが異常行動の原因と断定できるわけではありません。
発熱から少なくとも2日間は転落対策を
厚生労働省は、抗インフルエンザ薬の服用の有無や種類に関係なく、少なくとも発熱から2日間は転落事故などを防ぐ対策を呼びかけています。
- 窓や玄関を確実に施錠する
- できるだけ1階やベランダから離れた部屋で寝かせる
- 子どもだけで窓・ベランダに近づけない環境をつくる
- 看病する家族で子どもの様子を共有する
こうした対策は、脳症の診断の有無とは関係なく大切です。
脳症が疑われたら、病院では何をする?
医師は意識状態や神経症状、呼吸・循環状態を確認し、必要に応じて血液検査、頭部CT・MRI、脳波などを組み合わせて評価します。病初期には画像検査で明らかな異常が見つからない場合もあり、症状の経過を含めて判断します。
治療は重症度や病型に応じて異なり、けいれんへの対応、呼吸・循環の管理、脳への負担を減らすための集中治療などが行われます。専門医が病態に応じて追加治療を検討する場合もありますが、すべての脳症で同じ治療が有効と確立されているわけではありません。
解熱剤が脳症の原因になる?
「解熱剤を使うとインフルエンザ脳症になる」と一括りにするのは正確ではありません。一方、インフルエンザの小児では使用を避けるべき解熱鎮痛薬があり、薬の選択には注意が必要です。
子どもの解熱剤は、年齢や持病などを踏まえて医師・薬剤師の指示に従ってください。自己判断で大人用の解熱鎮痛薬や残薬を使用しないことが重要です。一般に小児ではアセトアミノフェンが用いられますが、適切な量や使い方は個別に確認してください。
ワクチンや抗インフルエンザ薬で防げる?
インフルエンザワクチンには発病を一定程度予防し、重症化を防ぐ効果が期待されています。ただし、接種しても感染することはあり、脳症の発症を必ず防げるわけではありません。脳症という個別の合併症への予防効果を、すべての子どもに共通する数値で断定することはできません。
抗インフルエンザ薬は、必要に応じて医師が処方します。早期投与が有用なことはありますが、服用すれば脳症を確実に予防できるというものではありません。重い症状があるときは、薬の服用状況にかかわらず受診してください。
家庭で確認したい5つのポイント
- 呼びかけ: 名前を呼ぶと普段どおり反応するか
- 言動: 会話が成り立つか、普段と違う言動が続いていないか
- けいれん: 起きていないか、起きたら何分続いたか
- 呼吸・顔色: 息苦しさや唇の色の異常がないか
- 飲水・活動性: 飲めるか、ぐったりしていないか
「何時ごろから」「何が起こり」「何分続き」「その後どのように戻ったか」を記録できると受診時に役立ちます。ただし、記録や動画撮影のために救急対応を遅らせないでください。
よくある質問
Q.高熱だと脳症になりやすい?
熱の高さだけでは判断できません。高熱でも意識や全身状態が保たれることはありますし、熱だけを見て重症化を見逃すこともあります。意識、反応、けいれんなどを重視してください。
Q.一度だけ変なことを言ったら、すぐ脳症?
必ずしも脳症ではありません。しかし、普段と違う言動が続く、繰り返す、反応が戻らない場合は早急に医療機関に相談してください。
Q.熱性けいれんと脳症は家庭で見分けられる?
確実には見分けられません。初めてのけいれんは医療機関で評価を受け、5分以上続く、呼吸がおかしい、意識が戻らない場合は119番通報してください。
Q.発熱から2日たてば異常行動は起こらない?
いいえ。「少なくとも発熱から2日間」は事故予防上の重要な目安であり、その後は絶対に安全という意味ではありません。気になる症状があれば引き続き対応が必要です。
まとめ|熱の高さより「反応・意識・行動の変化」を
インフルエンザ脳症はまれですが、急速に悪化することがある重い合併症です。異常行動のすべてが脳症ではない一方、持続する意識障害やけいれんを見逃さないことが大切です。
特に、呼びかけに反応しない、けいれんが長く続く、呼吸状態が悪い場合には119番通報してください。家庭では少なくとも発熱から2日間、転落事故への対策も行いましょう。
保護者の方に知っておいてほしいのは、「怖い病名」だけでなく「どの変化に気づき、どう行動するか」です。
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参考資料
- 日本小児神経学会「小児急性脳症診療ガイドライン2023」
- 厚生労働省「令和8年度冬季 ARI総合対策に関するQ&A」
- 国立健康危機管理研究機構「IDWR 2026年第35号 インフルエンザ」
- 読売新聞オンライン(2026年10月22日報道、配信先)
情報確認日:2026年10月24日
※この記事は一般向けの医療情報であり、診断・治療に代わるものではありません。強い症状や緊急症状があれば速やかに医療機関へ相談、または119番通報してください。