※本記事は2026年9月時点の厚生労働省、総務省消防庁、日本赤十字社、PMDA(医薬品医療機器総合機構)、日本創傷外科学会等の公開情報をもとに作成しています。市販薬の選択や、持病のお薬の備蓄・管理については、医師・薬剤師・登録販売者へご相談ください。
こんにちは、看護師のニシユウです。
毎年9月は「防災月間」です。9月1日の防災の日を中心に、非常食の賞味期限や防災リュック、飲料水の備蓄を見直した方も多いのではないでしょうか。
しかし、外来や在宅ケアの現場で患者さんやご家族とお話ししていると、意外と見落とされやすいのが「家庭の救急箱・常備薬の点検」です。
- 必要なときに確認したら、薬の使用期限が切れていた
- 開封日が分からず、使ってよいか判断できなかった
- 持病の薬や服薬情報を持たずに避難して困った
災害時や深夜・休日の急病など、「本当に必要なとき」に安全に使えなければ、せっかくの備えを十分に生かせません。
今回は、看護師の視点から、「家庭ごとに揃えたい常備薬・衛生用品」、「薬の使用期限と保管の注意点」、そして「災害時に役立つ持病薬・お薬手帳の備え方」を分かりやすく解説します。
1. 家庭の救急箱に揃えたい基本アイテム
市販の救急箱セットに入っている物を、すべて揃える必要はありません。家族の年齢、持病、アレルギー、普段使っている薬に合わせ、必要な物を選びましょう。
| 分類 | 備えておきたい物 | 安全に使うためのポイント |
|---|---|---|
| 解熱鎮痛薬 | 家族が使用できることを薬剤師等に確認した製品 | アセトアミノフェンとNSAIDs(イブプロフェン、ロキソプロフェン等)は、注意すべき持病や併用薬が異なります。子どもは年齢・体重に合う製品を用意し、大人用を自己判断で分けて与えないでください。総合感冒薬との成分重複にも注意します。 |
| 胃腸薬・整腸剤 | 普段から使用経験があり、体質に合う製品 | 下痢止めは、発熱、血便、強い腹痛、食中毒が疑われる場合などには適さないことがあります。脱水を防ぐ水分補給を優先し、症状が強いときは医療機関へ相談してください。 |
| かぜ症状に使う薬 | 必要に応じて、症状に合った単一成分の薬など | 総合感冒薬には解熱鎮痛成分、抗ヒスタミン成分、鎮咳成分などが含まれ、他の薬と重複することがあります。緑内障、前立腺肥大症、高血圧、妊娠・授乳中などでは購入前に薬剤師等へ確認しましょう。 |
| 外傷の手当て用品 | 絆創膏、非固着性パッド、滅菌ガーゼ、サージカルテープ、包帯 | 浅い傷は清潔な流水でよく洗い、傷に合う被覆材で保護します。ハイドロコロイド製品は、感染している傷、深い傷、かみ傷、刺し傷、汚れを除去できない傷などには自己判断で使用しないでください。 |
| 衛生・測定用品 | 電子体温計、清潔なピンセット、ハサミ、使い捨て手袋、個包装マスク | 体温計の動作と電池を定期的に確認します。手袋はサイズや素材も確認し、血液・排泄物の処理後は手洗いを行ってください。 |
| 目の洗浄・乾燥対策 | 必要に応じて、未開封の使い切り人工涙液など | 砂やほこりが入ったときは、まず清潔な流水等で洗い流します。使い切り点眼薬は再使用せず、製品の添付文書に従ってください。強い痛み、視力低下、薬品の飛入、異物が取れない場合は早めに受診します。 |
重要:市販薬は「家族全員が同じ物を使える」とは限りません。購入時に、年齢、妊娠・授乳、持病、アレルギー、服用中の薬を伝え、使用できる人の名前を箱に書いておくと安全です。
2. 傷の手当て|「まず消毒」ではなく、洗浄と止血が基本
現在の一般的な創傷ケアでは、すべての傷に消毒薬を繰り返し使用するのではなく、水道水などの清潔な流水で十分に洗浄することが重視されています。消毒薬には組織を傷める性質がある一方、感染が強い傷などで医療者が必要と判断する場合もあります。「消毒薬はどんな傷にも不要」と一律に考えないことが大切です。
浅い切り傷・すり傷の基本手順
- 手を清潔にする:手当てをする人は手洗いを行い、可能なら使い捨て手袋を着けます。
- 出血が多ければ止血を優先する:清潔なガーゼや布を当て、傷口を数分間しっかり圧迫します。途中で何度も外して確認しないことがポイントです。
- 流水で十分に洗う:出血が少ない場合は、水道水などの清潔な流水で砂や土などを洗い流します。
- 傷に合う材料で保護する:水分をやさしく拭き取り、絆創膏、非固着性パッド、ガーゼ等で保護します。被覆材は製品の対象となる傷と交換方法を守ります。
深い傷、傷口が大きく開いている傷、異物が残る傷、動物や人によるかみ傷、汚染された深い刺し傷、止血できない傷は医療機関へ相談してください。破傷風の予防接種歴が不明・不十分な場合も、受診時に必ず伝えましょう。
3. 薬の「使用期限」と正しい保管方法
薬に表示されている使用期限は、原則として未開封で、指定された条件どおりに保管した場合の期限です。開封後に使える期間は、薬の種類だけで一律には決められません。製品、容器、保存条件、汚染の有無によって異なるため、箱・容器・添付文書の表示を優先してください。
| 薬剤の種類 | 期限の考え方 | 注意点・処分の目安 |
|---|---|---|
| 複数回使用する点眼薬 | 開封後の期間は製品ごとに確認 | 一般に短期間での使用が前提ですが、「一律1か月」とは限りません。容器の先端を目、まつ毛、指に触れさせず、濁りや異物、変色があれば使用しないでください。 |
| 使い切り点眼薬 | 開封後はその場で使い切る | 防腐剤の有無にかかわらず、残液を後で再使用しないでください。製品の表示を優先します。 |
| 軟膏・クリーム | 製品の表示・薬剤師の指示に従う | 開封日を記入し、容器の先端を皮膚や指に直接触れさせないようにします。分離、変色、異臭、容器の破損があれば、期限内でも使用を中止します。 |
| 錠剤・カプセル | 元の包装と期限表示を保つ | PTPシートに入っていても、使用期限が外箱にしかない製品があります。箱と添付文書を一緒に保管してください。シートから出した薬や、薬名・期限が分からない薬は備蓄に回さない方が安全です。 |
| 処方された水薬・シロップ | 調剤時に示された期間・保存方法を守る | 調製方法や保存条件によって使用可能期間が異なります。残った薬を次の似た症状に自己判断で使わず、処分方法を薬局へ確認してください。 |
救急箱を避けたい保管場所
薬は一般に直射日光、高温、多湿を避け、製品に表示された方法で保管します。
- 浴室に近い洗面所・脱衣所:湿気や温度変化が大きい場所は避けます。
- キッチンのシンク下・コンロ周り:湿気や熱の影響を受けやすい場所です。
- 車内:高温・低温になりやすく、常備薬の保管場所には適しません。
おすすめの保管方法:元の箱・添付文書と一緒に、室内の直射日光が当たらず、温度・湿度の変化が少ない場所へ保管します。冷所保存が必要な薬は個別の指示に従ってください。子どもの手や認知症のある方の手が届かないよう、必要に応じて施錠・ロックできるケースを使いましょう。
4. 災害時に備える持病薬と服薬情報
高血圧、糖尿病、心臓病、てんかん、喘息などで薬を継続している方にとって、災害による治療の中断は健康状態の悪化につながるおそれがあります。かかりつけ医療機関や薬局が被災したり、通信・交通が途絶えたりする可能性を考え、薬そのものと服薬情報の両方を備えましょう。
① 持病薬は「1週間程度」を一つの目安に、事前に相談する
厚生労働省の災害対策資料では、患者向けの備えとして、薬を常時1週間ほど予備に持つことが示されています。ただし、処方日数や保管方法、予備を持てる量は薬ごと・患者ごとに異なります。飲む量を自己調整したり、受診せず余らせたりせず、災害用にどの程度確保できるかを、平時に医師・薬剤師へ相談してください。
- 古い薬から使い、受診・調剤のたびに入れ替える
- 高温になる車内や、屋外の物置に入れっぱなしにしない
- 冷蔵が必要な薬、注射薬、医療材料は停電時の対応も確認する
- 中断すると危険な薬について、飲めない場合の連絡先や対応を確認する
② お薬手帳は「紙+端末内データ」で備える
お薬手帳には、薬剤名、規格、用法・用量、アレルギー歴、副作用歴など、災害時の診療に役立つ情報があります。紙のお薬手帳を持ち出し袋に入れるだけでなく、最新ページをスマートフォンで撮影し、通信がなくても端末内で表示できる状態にしておくと安心です。
写真や電子版お薬手帳は、医師・薬剤師が薬歴を確認するための重要な手掛かりになります。ただし、写真を見せれば必ず同じ薬をすぐ受け取れる、という保証ではありません。診察の必要性、災害時の供給状況、本人確認、薬の種類などにより対応は異なります。
- 薬の名前だけでなく、規格(○mg)、1回量、服用回数が分かるページを保存する
- アレルギー歴・副作用歴、主な病名、かかりつけ医療機関・薬局の連絡先も控える
- 電子版お薬手帳やマイナポータルも活用し、紙や端末内の写真と併用する
- スマートフォンの充電切れに備え、モバイルバッテリーも準備する
- 服薬情報は個人情報なので、端末のロックや写真の共有範囲にも注意する
5. 災害時・急病時の受診の目安【3区分】
① 迷わず119番通報する症状
- 反応がない、意識がもうろうとしている、けいれんが続く
- 突然の激しい胸痛、強い圧迫感、突然または急激に悪化する息苦しさ
- 突然、顔の片側がゆがむ、片腕に力が入らない、言葉が出ない・ろれつが回らない
- 清潔な布等で強く直接圧迫しても止まらない大量の出血
- 頭を強く打った後の意識障害、けいれん、手足の麻痺、繰り返す嘔吐
※命に関わる可能性があります。安全を確保して周囲に助けを求め、ためらわず119番へ通報してください。災害時は、自治体・消防・避難所の案内にも従ってください。
② 当日〜早めに医療機関へ相談したい症状
- 傷が深い・大きく開いている、異物が残っている、動物や人にかまれた
- 傷口の赤み・腫れ・痛みが広がる、熱を持つ、膿が出る、発熱を伴う
- 転倒や打撲後に変形がある、体重をかけられない、強い痛みやしびれがある
- 嘔吐や下痢が続き、水分を保てない、尿が極端に少ない、ぐったりしている
- 持病薬が不足しそう、または服薬を中断して症状が悪化している
※夜間・休日に判断を迷う場合は、実施地域では救急安心センター(#7119)、子どもは子ども医療電話相談(#8000)を利用できます。#7119の実施地域、両窓口の受付時間・直通番号は地域によって異なるため、平時に自治体の最新情報を確認しておきましょう。明らかな緊急症状がある場合は、相談窓口を待たず119番へ通報してください。
③ 家庭で経過を見られることが多い症状
- 出血が少なく、圧迫で止血できた浅い切り傷・すり傷
- 変形、しびれ、強い腫れがなく、日常動作ができる軽い打撲
- 意識や呼吸に異常がなく、水分が取れ、全身状態が良い軽い症状
※乳幼児、高齢者、妊娠中の方、免疫機能が低下している方、重い持病がある方は、軽く見える症状でも早めの相談が必要なことがあります。症状が悪化する、改善しない、新しい症状が加わる場合は受診してください。
6. 9月に確認したい「救急箱チェックリスト」
- 薬の使用期限と開封日が確認できる
- 薬名・対象者・用法が分かる箱や添付文書が残っている
- 家族の年齢・持病・併用薬に合う市販薬か確認できている
- 体温計が作動し、電池切れになっていない
- ガーゼ、手袋、絆創膏などの包装が破損・汚染していない
- 持病薬の予備について医師・薬剤師と相談している
- 最新のお薬手帳を、紙とスマートフォンの両方で確認できる
- #7119・#8000・かかりつけ医療機関・薬局の連絡先を控えている
7. まとめ|救急箱は「中身」だけでなく「使える状態」を点検しよう
防災対策というと、保存水や非常食、簡易トイレに意識が向きがちですが、災害時には「自分や家族が安全に使える常備薬」「清潔な手当て用品」「正確な服薬情報」も重要です。
ただ薬を多く入れておくのではなく、「期限が確認できるか」「家族が使える薬か」「保管方法は正しいか」「持病薬と服薬情報を持ち出せるか」を確認しておきましょう。
この9月、防災リュックと一緒に救急箱を開け、期限・開封日・不足品を点検してみてください。判断に迷う薬は自己判断で残さず、薬剤師へ相談すると安心です。





