※本記事は医療・健康情報をわかりやすく整理したものです。症状がある場合や判断に迷う場合は、自己判断せず医療機関へ相談してください。
暖かくなってくると、草むら、畑、山、公園、河川敷、庭作業、ペットとの接触などをきっかけに、ダニに刺された、またはダニ咬傷が疑われる患者さんが増えてきます。
ダニ咬傷と聞くと、まず心配されるのはSFTS、いわゆる重症熱性血小板減少症候群や、日本紅斑熱などのダニ媒介感染症です。 もちろん、これらは注意が必要な感染症です。
ただ、現場で実際に気をつけたいのは、感染症だけではありません。 「ダニと気づかずに取ってしまった」「虫のようなものをむしり取った」「気づいたら黒いものがついていて取った」というあとに、噛み口が赤く腫れたり、痛みが出たり、膿んできたりするケースもあります。
この記事では、ダニ咬傷について、ダニ媒介感染症の注意点と、意外と見落とされやすい噛み口の化膿・局所感染について、看護師目線で整理します。
結論:ダニ咬傷は「取れたから大丈夫」とは限らない
ダニに刺された可能性がある場合、大切なのは次の3つです。
- 吸血中のマダニを見つけたら、無理に引き抜かない
- 取った後も、噛み口の赤み・腫れ・痛み・膿に注意する
- 数週間は、発熱・発疹・倦怠感・消化器症状などの全身症状に注意する
厚生労働省は、吸血中のマダニを無理に引き抜くと、マダニの一部が皮膚内に残って化膿したり、マダニの体液を逆流させたりするおそれがあるため、医療機関で処置を受けるよう案内しています。
すべてのダニ咬傷が重い感染症につながるわけではありません。 しかし、「ただの虫刺されだと思っていたら、あとから噛み口が悪化した」ということもあります。
特に、無理に引っ張って取った場合や、何かに刺されたあとに赤みや腫れが強くなってきた場合は、早めに皮膚科などの医療機関へ相談することが大切です。
まず知っておきたい「マダニ」と「一般的なダニ」の違い
一口にダニといっても、すべてが同じではありません。 布団や畳、室内環境に関係するダニによる皮膚症状と、草むらや山林などで付着するマダニによる咬傷は、注意点が異なります。
この記事で主に扱うのは、皮膚にしっかり食いついて吸血することがあるマダニによる咬傷です。
マダニは、刺された瞬間に強い痛みやかゆみがないことも多く、吸血して大きくなってから気づくことがあります。 そのため、本人が「いつ刺されたかわからない」「最初はホクロやかさぶただと思った」と感じることもあります。
ダニ咬傷で注意したい2つの問題
| 注意したいこと | 主な内容 |
|---|---|
| ダニ媒介感染症 | SFTS、日本紅斑熱、つつが虫病、ライム病など。発熱、発疹、倦怠感、消化器症状などに注意。 |
| 噛み口のトラブル | 口器が皮膚内に残る、赤み、腫れ、痛み、熱感、膿、しこり、局所感染など。 |
ダニ咬傷というと、どうしてもSFTSなどの感染症に目が向きやすいです。 しかし、実際には噛み口そのもののトラブルも軽視できません。
ダニを無理に引き抜くと、皮膚に食い込んでいた一部が残ってしまうことがあります。 その部分が刺激になったり、傷口から細菌が入り込んだりすると、赤みや腫れ、痛み、化膿につながる可能性があります。
やってはいけない対応
ダニらしきものが皮膚についていると、驚いてすぐに取りたくなると思います。 しかし、次のような対応は避けたほうが安全です。
- 指でつまんで無理に引っ張る
- 爪でむしり取る
- 虫体を潰すように取る
- 針やカッターで皮膚をほじる
- 取れたから大丈夫と思い込んで観察しない
- 赤みや膿が出ても市販薬だけで様子を見続ける
特に注意したいのは、ダニの腹部をつまんで潰すように取ることです。 日本皮膚科学会でも、吸着したマダニの腹部を指でつまむと、マダニの体液成分が皮膚内に流入しやすくなるため避けるべきと説明されています。
吸血中のマダニを見つけた場合は、無理に取ろうとせず、可能であれば皮膚科などで除去してもらうことが安全です。
すでに取ってしまった場合はどうする?
実際には、ダニと気づかずに取ってしまうこともあります。 その場合は、慌てすぎず、次の点を確認してください。
- 噛み口に黒い点や異物のようなものが残っていないか
- 赤みが広がっていないか
- 腫れや痛みが強くなっていないか
- 熱感がないか
- 膿が出ていないか
- しこりが残っていないか
- 発熱やだるさなどの全身症状がないか
噛み口は、こすりすぎず、清潔に保つことが大切です。 ただし、針でほじったり、無理に残ったものを取ろうとしたりするのは避けてください。
赤み、腫れ、痛み、膿、熱感がある場合は、局所感染や炎症が起きている可能性があります。 このような場合は、皮膚科や外科などで診てもらうことをおすすめします。
噛み口の化膿で注意したいサイン
次のような変化がある場合は、早めの受診を考えてください。
- 赤みが日に日に広がっている
- 腫れが強くなっている
- 触ると熱い
- 痛みが増している
- 膿が出る
- 赤い筋のようなものが広がる
- しこりが残っている
- 噛み口の周囲が黒くなっている
- 発熱を伴う
「少し赤いだけ」と思っていても、時間とともに悪化することがあります。 特に糖尿病がある方、高齢の方、免疫が低下している方、抗がん剤や免疫抑制薬を使用している方は、皮膚感染が悪化しやすい場合があるため注意が必要です。
ダニ媒介感染症で注意したい症状
ダニに刺されたあとに注意したいのは、噛み口だけではありません。 刺された後、数日から数週間程度は、全身症状にも注意が必要です。
次のような症状がある場合は、医療機関を受診し、「ダニに刺された可能性がある」ことを必ず伝えてください。
- 発熱
- 強いだるさ
- 頭痛
- 筋肉痛
- 吐き気、嘔吐、下痢、腹痛
- 食欲低下
- 発疹
- 黒いかさぶたのような刺し口
- 意識がぼんやりする
- 出血しやすい、紫斑が出る
SFTSは、主にSFTSウイルスを保有するマダニに刺されることで感染し、潜伏期間は6日から2週間程度とされています。 主な症状として、発熱や吐き気、嘔吐、腹痛、下痢などの消化器症状が挙げられます。
日本紅斑熱では、発熱、発疹、刺し口が主要な三徴候とされています。 頭痛や倦怠感を伴うこともあります。
ただし、症状だけで自己判断することは困難です。 「夏風邪かな」「胃腸炎かな」と思っても、ダニに刺された可能性がある場合は、受診時にその情報を伝えることがとても重要です。
受診時に伝えるとよいこと
医療機関を受診するときは、次の情報を伝えると診療の助けになります。
- いつ頃刺された可能性があるか
- 草むら、山、畑、公園、河川敷などに行ったか
- ペットや動物との接触があったか
- ダニらしきものを自分で取ったか
- 取ったときに潰した、引っ張った、途中でちぎれた感じがあったか
- 噛み口の写真があるか
- 発熱、発疹、下痢、嘔吐、倦怠感などがあるか
可能であれば、ダニが付着していたときの写真や、取った後の噛み口の写真を残しておくとよいです。 時間の経過で赤みが広がっているかどうかも確認しやすくなります。
予防の基本:刺されないことが一番大切
ダニ咬傷は、刺されてからの対応も大切ですが、まずは刺されない工夫が重要です。
- 草むらや山に入るときは長袖・長ズボンを着用する
- サンダルなど肌の露出が多い履物は避ける
- ズボンの裾を靴下や長靴の中に入れる
- 首元、手首、足首の露出を減らす
- 虫よけ剤を適切に使用する
- 帰宅後は衣類を確認し、早めに着替える
- 入浴時に脇、足の付け根、膝の裏、腹部、背中、頭皮などを確認する
小さな子どもでは、頭部や首まわりに付着していることもあります。 外遊びやキャンプ、山や草むらで遊んだ後は、保護者が皮膚を確認してあげると安心です。
まとめ:ダニ咬傷は「感染症」と「噛み口」の両方を見る
ダニ咬傷で大切なのは、感染症だけを怖がることでも、ただの虫刺されと軽く見ることでもありません。
重要なのは、次のように冷静に対応することです。
- 吸血中のマダニを見つけたら、無理に引き抜かない
- 取ってしまった後も、噛み口の変化を観察する
- 赤み、腫れ、痛み、膿、熱感があれば受診を考える
- 発熱、発疹、倦怠感、消化器症状があれば早めに相談する
- 受診時には、ダニに刺された可能性を必ず伝える
「取れたから大丈夫」と思っていても、あとから噛み口が化膿してくることがあります。 また、ダニ媒介感染症は初期症状だけでは判断が難しいこともあります。
暖かい季節の外遊び、庭作業、畑仕事、キャンプ、山歩きのあとには、ダニ咬傷にも注意しましょう。 少しでも不安がある場合は、早めに医療機関へ相談してください。