※画像は、感染症などによる発熱と熱中症による高体温の違いを分かりやすく伝えるためにAIで作成したイメージです。症状や体温だけで原因・重症度を判断することはできません。詳しい見分け方と受診の目安は本文で解説しています。
※本記事は2026年9月2日時点の厚生労働省、日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」などの情報をもとに、一般的な健康情報として作成しています。体温や症状だけで熱中症・感染症を診断することはできません。呼びかけへの反応がおかしい、意識がない、けいれんしている、自力で水分を飲めないなどの場合は、直ちに119番通報してください。
こんにちは。看護師のニシユウです。
暑い時期の診療現場では、患者さんから次のように言われることがあります。
「熱があるので、熱中症だと思います」
確かに、熱中症でも体温が上がることはあります。
しかし、感染症などによる「発熱」と、熱中症による「高体温」は、体温が上がる仕組みが異なります。
感染症などによる発熱では、脳にある体温調節の「設定温度」が高くなります。一方、熱中症では、高温多湿の環境や運動、脱水などの影響で、体内の熱を十分に外へ逃がせなくなります。
どちらも体温計では「体温が高い」と表示されますが、体の中で起きていることも、必要な対応も同じではありません。
また、体温の数字、汗の有無、悪寒だけで、熱中症と感染症を完全に見分けることはできません。
この記事では、発熱と熱中症による高体温の違いを、エアコンに例えながら分かりやすく解説します。あわせて、家庭で確認したいポイント、熱中症が疑われるときの対応、救急車を呼ぶ目安も整理します。
- 「体温が高い=すべて同じ発熱」ではない
- 感染症の発熱は、体が体温の設定値を高くする反応
- 熱中症の高体温は、体内の熱を十分に逃がせない状態
- 熱中症は体温が高くなくても否定できない
- 意識や会話がおかしい、自力で飲めない場合は救急要請を考える
発熱と高体温は、体温が上がる仕組みが違う
日常会話では、体温が高い状態をまとめて「熱がある」「発熱した」と表現します。
しかし医学的には、感染症などで起こる発熱(fever)と、熱中症などで起こる高体温(hyperthermia)は、区別して考えます。
違いを理解するポイントは、脳の視床下部にある体温のセットポイント(設定値)です。
| 比較点 | 感染症などによる発熱 | 熱中症による高体温 |
|---|---|---|
| 主な仕組み | 脳が体温の設定値を高くする | 外部や体内の熱を十分に逃がせない |
| 分かりやすい例え | 暖房の設定温度を上げた状態 | 冷房が暑さや熱産生に追いつかない状態 |
| 起こりやすい状況 | 感染症、炎症性疾患、薬剤反応など | 高温多湿、運動、脱水、冷房不足など |
| 悪寒戦慄・震え | 体温が上がる途中にみられやすい | 有無だけでは判断できない |
| 対応の中心 | 原因と全身状態に応じた対応 | 暑さを避け、速やかに体を冷やす |
| 解熱薬 | 症状緩和のため使用する場合がある | 体を冷やす処置の代わりにはならない |
※実際には症状が重なることがあり、感染症と熱中症が同時に起こる可能性もあります。この表だけで自己診断することはできません。
発熱と熱中症による高体温では、体温が上がる仕組みが異なります(AI作成イメージ)。
感染症などによる発熱は「設定温度を上げる」反応
感染症などによる発熱は、体が単純に熱くなっているだけではありません。
ウイルスや細菌などに対して免疫反応が起こると、サイトカインなどの働きを介して、視床下部にある体温のセットポイントが高くなります。
たとえば、体が維持しようとする温度が、それまでの37℃前後から39℃へ変更されたと考えてみましょう。
実際の体温が37℃であっても、体にとっては新しい設定値の39℃より低いため、「寒い」と判断されます。
そこで体は、設定された温度まで上げようとして、次のような反応を起こします。
- 皮膚の血管を収縮させ、熱が逃げるのを抑える
- 鳥肌が立つ
- 寒気を感じる
- 筋肉を細かく収縮させて熱を作る
- 布団や暖かい場所を求める
この筋肉の細かな収縮による強い震えが、悪寒戦慄(いわゆるシバリング)です。
発熱は感染症でよくみられますが、炎症性疾患、薬剤反応、悪性腫瘍などでも起こることがあります。また、高齢者や免疫機能が低下している人では、重い感染症でも明らかな高熱が出ない場合があります。
熱中症の高体温は「熱を逃がす処理が追いつかない」状態
熱中症による高体温は、感染症の発熱のように、体が意図的にセットポイントを上げて起こるものではありません。
私たちの体は、気温が高いときや運動したときに、主に次の方法で熱を外へ逃がしています。
- 皮膚の血流を増やして熱を外へ逃がす
- 汗を蒸発させて体を冷やす
- 暑い場所を避け、水分を取るなどの行動をする
ところが、高温多湿の環境、激しい運動、脱水、体調不良などが重なると、熱を逃がす仕組みが十分に働かなくなります。
特に湿度が高いと、汗をかいても蒸発しにくいため、体を冷やす効果が弱くなります。
その結果、体内に熱がこもり、めまい、立ちくらみ、筋肉のこむら返り、頭痛、吐き気、強い倦怠感などが現れます。重症になると、意識障害、けいれん、肝臓・腎臓などの臓器障害や血液凝固の異常に進むことがあります。
熱中症と熱射病は同じ意味ではない
熱中症は、暑い環境によって起こるさまざまな健康障害の総称です。
軽い段階では、脱水や水分・電解質の喪失が症状の中心になることがあります。この段階から、体温調節機能が完全に破綻しているとは限りません。
一方、熱射病は、熱中症の中でも特に重篤な状態です。一般に高い深部体温と、意識や会話がおかしい、けいれんするなどの中枢神経症状や臓器障害を伴います。ただし、すでに冷却されている場合や測定方法によっては、医療機関へ到着した時点の体温が著しく高くないこともあります。
熱射病が疑われる場合は、医療機関での迅速な冷却と全身管理が必要です。
「微熱だから熱中症の初期」とは限らない
熱中症では、軽症でも体温が上がることがあります。しかし、微熱が熱中症の初期に必ず現れ、その後に高熱へ進むという決まった経過があるわけではありません。
熱中症があっても、測定した体温が正常範囲の場合があります。
その理由として、次のような点が挙げられます。
- 軽症では脱水や電解質異常が中心の場合がある
- 涼しい場所へ移動した後に測定している
- 汗や冷却によって皮膚表面の温度が下がっている
- 腋窩温や額の温度が、体の中心部の温度を正確に反映しない場合がある
暑い環境にいた人で38~39℃の高体温が確認された場合は、熱中症の重症化を疑い、意識や会話、歩行、水分摂取の状態を急いで確認する必要があります。返事がおかしい、会話がかみ合わない、まっすぐ歩けないなどの中枢神経症状があれば、熱射病を疑う危険な状態です。
ただし、熱射病かどうかは体温の数字だけでは判断できません。測定部位、測定した時点、それまでに行われた冷却などによって、表示される体温は変わります。また、暑い季節に38~39℃の体温があっても、暑熱への曝露状況がはっきりしない場合や、咳・喉の痛み・下痢・排尿時痛などを伴う場合は、COVID-19、インフルエンザ、肺炎、尿路感染症、胃腸炎などの感染症も考える必要があります。
「何度あるか」に加えて、暑い環境にいたか、運動していたか、意識や会話は正常か、自力で水分を飲めるか、咳・喉の痛み・下痢などがないかを確認することが大切です。
悪寒戦慄(シバリング)があれば感染症?
強い寒気や、歯がカチカチ鳴るほどの震えは、感染症などによる発熱でみられることがあります。
これは、体温のセットポイントが高くなり、体が現在の体温を「低すぎる」と判断して、筋肉を震わせて熱を作ろうとするためです。
ただし、悪寒や震えがあるという理由だけで、感染症と断定することはできません。
暑い環境から急に冷房の効いた場所へ移動したとき、汗でぬれた体に風が当たったとき、強い疲労や脱水があるときなどにも、本人が寒さや震えを訴える可能性があります。
悪寒は判断材料の一つにはなりますが、暑熱への曝露状況や、そのほかの症状と組み合わせて考える必要があります。
汗の有無だけでも重症度は判断できない
一般には、「熱中症が重症になると汗が出なくなる」と説明されることがあります。
確かに、皮膚が熱く乾燥することは重症熱中症でみられる所見の一つです。しかし、熱射病でも汗をかいている場合があります。
特に運動中に発症する労作性熱射病では、発汗が続いていることがあります。
そのため、次のような判断は危険です。
- 汗をかいているから重症ではない
- 汗が出なくなるまでは自宅で様子を見てよい
- 皮膚が冷たいから熱中症ではない
汗よりも、意識、会話、歩行、水分摂取の状態を優先して確認してください。
熱中症と感染症を見分けるためのヒント
家庭で完全に見分けることはできませんが、原因を考えるヒントはあります。
熱中症を疑う状況
- 暑い屋外や冷房のない室内に長時間いた
- 運動、屋外作業、草刈り、スポーツ観戦などをしていた
- 水分や食事が十分に取れていなかった
- 急に暑くなった日や、暑さに慣れていない時期だった
- めまい、立ちくらみ、こむら返り、頭痛、吐き気、強い倦怠感がある
- 涼しい場所への移動や冷却で症状が軽くなる
感染症なども考える症状
- 咳、喉の痛み、鼻水がある
- 排尿時の痛み、頻尿、腰や背中の痛みがある
- 下痢、腹痛、繰り返す嘔吐がある
- 発疹がある
- 周囲に同じような症状の人がいる
- 涼しい場所で休んでも発熱や症状が続く
感染症による発熱や食欲低下で脱水しやすくなり、暑い環境が重なることで熱中症を併発する可能性があります。「熱中症らしい」「感染症らしい」のどちらか一方に決めつけないことが大切です。
熱中症が疑われるときの応急処置
熱中症が疑われる場合は涼しい場所へ移し、体を冷やします。意識が低下している人には無理に飲ませないでください(AI作成イメージ)。
熱中症が疑われる場合は、体温測定だけに時間をかけず、次の対応を始めます。
- エアコンの効いた室内や日陰など、涼しい場所へ移動する
- 衣服をゆるめ、体を冷やす
- 意識がはっきりしており、むせずに飲める場合は水分・電解質を補給する
- 意識、会話、歩行、嘔吐の有無、症状の変化を確認する
冷却では、保冷剤を一部に当てるだけでなく、衣服をゆるめ、できるだけ広い範囲の皮膚を水でぬらして、扇風機やうちわなどで風を当てます。水分が蒸発するときに熱を奪う「気化熱」を利用することで、体の広い範囲から熱を逃がしやすくなります。
冷たいタオルや布で包んだ保冷剤などがあれば、首周り、脇の下、足の付け根などの冷却も併用します。ただし、局所冷却だけで十分とは限りません。意識や会話がおかしいなど重症熱中症が疑われる場合は、119番通報後も救急隊の到着を待つ間に、可能な範囲で全身の冷却を続けてください。
ただし、意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応がおかしい、嘔吐しているなどの場合は、無理に飲ませないでください。誤嚥する危険があります。
解熱薬を飲めば熱中症の体温は下がる?
感染症などの発熱に使用される解熱薬は、体温のセットポイントに作用する薬です。
熱中症では、セットポイントが上がっていることが主な原因ではないため、解熱薬は体にたまった熱を逃がす処置の代わりにはなりません。
「熱があるから、とりあえず解熱薬を飲んで様子を見る」のではなく、熱中症が疑われる状況なら、まず暑さを避けて体を冷やしてください。
なお、自己判断で複数の解熱鎮痛薬を重ねて服用することは避け、使用について迷う場合は医師・薬剤師へ相談してください。
すぐに119番通報が必要な症状
- 呼びかけへの反応がおかしい
- 会話がかみ合わない、普段と様子が違う
- 意識がない
- けいれんしている
- まっすぐ歩けない、立てない
- 自力で水分を飲めない
- 強い呼吸困難がある
- 冷却しても急速に悪化している
救急車を呼んだ後も、救急隊の到着を待つ間に涼しい場所へ移し、衣服をゆるめ、体を冷やし続けます。
意識がなく、普段どおりの呼吸がない場合は、119番の指示に従い、胸骨圧迫やAEDなどの一次救命処置を開始してください。
早めに医療機関へ相談したい目安
- 涼しい場所で休み、冷却・水分補給をしても改善しない
- 頭痛、吐き気、強い倦怠感などが続く
- 嘔吐があり、水分を取っても吐いてしまう
- 尿が極端に少ない、長時間出ていない
- 発熱、咳、喉の痛み、下痢、排尿時痛などがある
- 高齢者、乳幼児、妊婦、基礎疾患のある人に症状が出ている
- 利尿薬などを使用しており、水分補給の判断が難しい
持病のために水分や塩分の制限を受けている人は、一般的な熱中症対策をそのまま適用できない場合があります。主治医から受けている指示を優先してください。
「救急車を呼ぶべきか、今すぐ病院へ行くべきか」迷ったときは、自治体の相談電話窓口を活用してください。
- #7119(救急安心センター事業):医師・看護師・相談員などから、救急車を呼ぶべきか、早急に受診すべきかについて助言を受けられます。実施地域や利用時間をご確認ください。
- #8000(こども医療電話相談):夜間・休日などの子どもの急な体調不良やけがについて、小児科医師・看護師へ相談できます。利用時間は都道府県によって異なります。
9月になっても熱中症に注意が必要
暦の上では秋になっても、気温や湿度が高い日は続きます。
特に9月は、「真夏ではないから大丈夫」と油断しやすい一方で、次のような場面があります。
- 日中の屋外作業や運動
- 運動会やスポーツ観戦
- 冷房を切った室内
- 車内での待機
- 台風後の片付けや停電時
- 睡眠不足や体調不良のまま行う活動
気温だけでなく湿度や暑さ指数(WBGT)も確認し、のどが渇く前の水分補給、冷房の使用、休憩、活動時間の調整を行いましょう。
まとめ|「熱がある」だけで原因を決めつけない
感染症などによる発熱と、熱中症による高体温は、どちらも体温が上がりますが、その仕組みは異なります。
- 発熱:体が体温の設定値を高くする反応
- 熱中症の高体温:外部や体内の熱を十分に逃がせない状態
感染症による発熱では、体温を上げるために悪寒や震えが起こることがあります。一方、熱中症では、高温多湿、運動、脱水などによって熱を外へ逃がす処理が追いつかなくなります。
ただし、実際の症状には重なる部分があり、体温、悪寒、汗の有無だけで完全に見分けることはできません。
大切なのは、体温計の数字だけではなく、次の点を一緒に見ることです。
- 暑い環境にいたか
- 運動や屋外作業をしていたか
- 意識や会話は正常か
- 自力で水分を飲めるか
- 咳、喉の痛み、下痢など、ほかの症状がないか
呼びかけへの反応がおかしい、自力で水分を飲めない、けいれんしている場合は、体温の数字にかかわらず、直ちに119番通報してください。


